2025年は9月に参加した世界最大級のwomen’s healthのカンファレンスである”Women’s Health Innovation Summit”が、11月4日~6日に米国ボストンで開催されました。去年との比較も交えながら、米国、そして世界の様子をレポートします。
盛り上がる展示エリア:ビジネスとして急拡大
まず展示エリアの大きさと出展社の多さに驚きました。昨年はセッションやスタートアップのピッチが主流で、展示はとても少なかったのですが、今年は倍以上の30社程度が出展していました。また、昨年はwomen’s healthの商品やサービスの出展が中心でしたが、今年はwomen’s healthの事業者にサービスを提供したい関連ソリューションを持っているサプリメントの原料の会社や、医療・ヘルスケア商品・サービスの開発に欠かせない臨床試験をサポートする会社、またデータプラットフォームを提供する会社など、周辺の企業からの注目が高まっていることを感じました。ビジネスとして急拡大しており、この領域のプレイヤーだけでなく、周辺領域からも注目されているということですね。
出展社の中でwomen’s healthで面白いなと思った商品やサービスをいくつかご紹介しますね。
Ohmbody:米国テキサスの会社が発売した新しい生理痛用のウェアラブルデバイスです。驚くことに耳周辺から電気パルスで神経に刺激をすることで生理痛が軽減させるものです。これまでの薬や、温める、TENS(経皮的電気刺激療法)とはまったく異なる新しい方法です。既にいくつかの研究で生理痛への効果が検証されており、88%が月経の快適さが向上したと実感、生理が55%軽くなり、初日は35%軽くなった、71%が感情的に安定していると感じた、と報告されています。現在は医療機器ではなく、ウェルネスデバイスとして米国内で販売しているとのことです。

Mira:自宅で、尿を使って4つの女性にとってキーとなるホルモンの値を自宅で測定できるデバイスです。かわいい卵型のデバイスと、個人のスマホにインストールするアプリからなります。LH,、E3G、PdG、FSHという4つの生理や妊活に関連するホルモンを一度に測定でき、なんと陽性、陰性だけでなく、数字で知ることができます。それを毎日行うことでアプリ上に記録ができ、グラフ化することがで、女性自身が自分のホルモンの動きを知ることができるというものです。女性自身が購入することももちろんできますが、会社の福利厚生としての提供も一部はじまっているとのことでした。

OPill:薬局で購入できる低用量ピルです。日本ではピルは処方薬で、医師の処方箋が必要です。近年オンラインのサービスがでてきて、ようやくアクセスが良くなってきたところですが、米国と英国では処方箋なしで薬局で購入できるとのこと。昨年アメリカに訪問した時に薬局でみつけて驚いたのを覚えていますが、アメリカでも画期的な取り組みということで、出展してアピールしていました。
誰がお金を払うの?社会としてカバーする方向に進化
昨年は女性が払うのではなく、医療保険など社会としてのカバーを取得していくことがwomen’s healthを広げる鍵だという議論がされ、いくつかの先駆的なサービスが医療的な、そして医療費削減のエビデンスをもって医療保険のカバーを取得したと話題になっていました。今年は、そうした医療保険、または会社の福利厚生でカバーをされるようになった商品・サービスがとても増えていました。
例えば、更年期用のアプリを提供するElektra Healthは、一緒にパネルディスカッションに登壇したOscar Healthや他の医療保険で使えるようになっているとのことでした(アメリカの医療保険は国民皆保険ではなく、それぞれが保険会社を選んで加入する形)。Elektraのアプリでは、更年期専門の医師にアクセスできたり(アメリカにはThe menopause societyという団体が認定をしている)、更年期について学んだり相談ができるコミュニティがあるそうです。保険会社としては、医療的にエビデンスがあるか、医療費が減らせるかなどを検討した上で採用を決めるそうですが、民間保険ということで、選ばれるために新しいものを積極的に採用しているということですね。日本ではどのように社会的なカバ―を実現するのか、議論をしていく必要があると強く感じました。

ホルモンを継続的に測定する時代に
展示でも紹介されていたMiraのようにホルモンを測定するデバイスが複数出てきています。Hormonaというスウェーデン発のスタートアップで、尿検査でホルモン(エストロゲン、プロゲステロン、FSH)を測定して、アプリでグラフ化をしているところもありました。Hormonaは既に世界190か国以上から3万人以上のユーザーがいるそうですが、ヨーロッパの保険会社と保険のカバーを検討しているとのことで、さらなる普及が見込まれます。また、Step-in-Healthというスタートアップもホルモンを測定してアプリで管理ができるものを開発しているとのことでした。
ホルモンを測定するデバイスやアプリが普及していくと、その先に何が期待できるでしょうか。たくさんの女性のホルモンのデータが集まります。妊活を目的としているものや、月経コントロール、更年期のコントロールなど目的はいろいろあると思いますが、この大量のデータを分析していくことで、いろいろなことが解明されていくでしょう。
また、データの活用のセッションが別にあり、そこのセッションでは、women’s healthのデータを集める土台ができてきたため、それをどう解析して活用していくかというフェーズに入ってきていると議論されていました。そうすると定量的な数値をもとに適切なソリューションにつなげていくことができます。そしてその効果も定量的に見ることができるかもしれません。今まで不調があったときにいろいろ試してようやく見つけていたものが、データに基づいてAIがおすすめしてくれ、効果にもとづいて続けるかどうかを判断できる、そんな時代がくるんだなと感じました。
スタートアップの紹介
今回もスタートアップピッチがありました。今回は、Digital Health部門と医療部門に分かれ、それぞれ6社ずつ発表していましたので、その中からいくつかご紹介します。Digital Health部門は先述のホルモンを測定する会社が2社ありましたので、そちらは割愛しますね。医療部門は、去年はほとんど見られなかった薬の会社が出てきていました。薬は開発期間が長かったり、投資額も大きいので、ついに出てきた!と感じています。
Digital Health部門
CleoCare:デジタルヘルス部門の優勝スタートアップです。ポルトガル発で、乳がんのセルフチェックをより正確にするための圧センサー付きグローブとアプリからなります。乳がんの検診の方法はいろいろ出てきていますが、セルフチェックの精度を上げるという視点で新しいなと思いました。乳がんを見つけた方の6割近くが、検診以外(多くがセルフチェックと想定)で見つけたという報告もあり、セルフチェックはとても重要です。でも手で触ってもよくわからない、これをセンサーとアプリで改善するものです。

医療部門
Wavelet:医療部門の優勝スタートアップです。胎児の脳活動をモニタリングするデバイスを開発しており、胎児に何らかのストレスや脳損傷リスクが生じている可能性を検知して、脳損傷を減らすことを目的にしています。臨床試験をしており、今後アメリカで医療機器として登録をしていく予定だそうです。
Innovene Therapeutics: 子宮頸がんの薬を開発している米国のスタートアップです。腟内に塗るクリーム型の薬です。子宮頸がんはHPVに持続的に感染することで細胞の異形成が進み、がん化していきます。ワクチンや検診方法も確立されていますが、感染している途中段階でのアプローチはあまりありません。新しい有効な手段として期待がもてます。これから臨床試験だとのことで、将来出てくることを期待しています。
昨年と比べて大きく進んでおり、アメリカをはじめとする海外ではどんどんソリューションが増えて社会的なカバーがされ、女性に届くようになってきました。日本も社会として、これらのソリューションを受け入れて女性に届けていく必要があると、強く感じたカンファレンスでした。
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